大 会 宣 言
2020年2月に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックという未曾有の試練から、数年が経過した。かつて文化芸術に浴びせられた「不要不急」という冷徹な烙印に対し、私たちは音楽の灯を絶やすことなくともし続け、融和と結束をもたらす不可欠な「営み」として、その価値を社会に証明してきた。完全にコロナ以前へと戻る道はなくとも、私たちは新しい価値観の中で、絶え間なく音楽を社会へと響かせ続けている。
しかし、私たちの前に横たわる現実は、今なお厳しい。異常な円安や物価高、そのような中で強行導入されたインボイス制度は音楽家の活動を直撃し、日々の研鑽と生活の基盤を脅かし続けている。
このような中、私たちは、不均衡な取引是正をめざした「フリーランス法」の施行、そして長年求めてきた「労災保険の特別加入制度」の創設など、社会保障制度の拡充に向け一歩一歩、確かな足跡を刻んできた。これは正に、音楽ユニオンの旗の下に結集した労働者の連帯の成果である。
だが、その労災保険料が全額自己負担という厳しい現実は、音楽家の創造活動を支えるセーフティネットとして未だ不完全と言わざるを得ない。誰もが安心して音楽の道を進み、若い世代が未来を描ける社会の実現に向け、私たちは不断の努力を続ける。
また、世界に目を向ければ、対話と理解を欠いた武力行使や軍事的緊張が各地で頻発し、不条理な戦火により人々の日常や夢を奪い続けている。
かつて戦禍の痛苦と絶望を表現に託し、平和の尊さを訴え続けてきた先人たちの歴史を振り返る時、私たち音楽家が果たすべき社会的役割は極めて大きい。音楽は、国境や言語、あらゆる分断を超えて人々の心を繋ぎ、相互理解と共感を育む力を持っている。この激変する世界において、私たちは平和を強く希求し、他者と寄り添う社会の構築に向け、再び強く団結しなければならない。
そして今、私たちはテクノロジーの急速な進化という、もう一つの地殻変動の渦中にいる。生成AI(人工知能)の台頭は著作権法第三十条の4を震源として、実演家の権利のあり方にこれまでにない深刻な課題を突きつけている。音楽がデジタルコンテンツとして効率的に消費され、作り手の尊厳が軽視され始めている今、私たちは知的創作物の衡平な再生産の循環を守り抜く正念場を迎えている。
しかし、私たちは恐れない。どれほど技術が進化しようとも、人間がその身体を使い、魂を削って生み出す一音の輝きや深み、その場でしか共有できない一期一会の響き、そして演奏者の人生が紡ぐ物語を機械が代替することは不可能だからである。
今般のバラバラに分断されがちな社会が求めているのは、正に生身の人間が繋がる場であり、私たち音楽家は、その人々を繋ぎ止める「社会の結び目」そのものである。
課題を乗り越えるための第一は、言うまでもなく「団結」である。職能や働き方の別を超え、すべての音楽家が結集し、社会や他業種との連帯の要となること。それこそが、私たちの社会的・経済的地位を向上させる唯一の道である。
第二は、私たち自身が「社会の結び目」としての誇りとリテラシーを高めることである。私たちが奏でる音楽の価値を守るため、AI時代における自らの権利を学び、法制度への理解を深める。技術の進化に目を背けることなく、人間にしか生み出せない表現の尊厳を自覚的に研ぎ澄ますと同時に、社会を支える一人の中核たる労働者として主体的な視座を持つこと。それこそが、現代を生き抜く音楽家の真の強さである。
日本音楽家ユニオンは、結成から積み重ねてきた歴史と先人たちの遺志、そしてこれからの職業音楽家を支える若者たちの希望と不安を共に抱きながら、すべての音楽家の尊厳を守り、音楽の力で平和で心豊かな社会の実現に向け、誇り高く前進することをここに宣言する。
右、宣言する。
二〇二六年七月二十九日
日本音楽家ユニオン 第四十六回臨時全国大会