Cop20におけるペルナンブコ材(ブラジルボク)の
附属書I移行に関する音楽家の立場からの声明
日本音楽家ユニオンは、地球規模での自然環境の保全の重要性を深く理解し、そのとりくみに賛同するものです。中でも弦楽器の弓の材料として不可欠なペルナンブコ材(ブラジルボク)については、強い危機感を持っています。
しかしながら、CoP20(2025年11月・ウズベキスタン)においてブラジル政府が同材をCITES(ワシントン条約)附属書Iへ移行する提案をされていることに対し、音楽文化と芸術的表現の持続性という観点から、深い懸念を表明せざるを得ません。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスといった弦楽器の弓においてペルナンブコ材は、密度・弾力・共振性により他の木材にはない豊かで繊細かつ力強い音色を実現し、演奏家の意図する表現を正確に具現する最適な材として使われ、数えきれないほどの名演奏を影で支えてきました。
その材が使えなくなることは音色の変化を意味し、何百年にわたり培われてきた演奏技術や音楽様式にも影響を及ぼし、人類共通の文化遺産を損なう恐れがあります。
ペルナンブコ材が附属書Iに移行し商業的な国際取引が原則禁止された場合、音楽文化に以下の深刻な影響を及ぼすことが予想されます。
1)質の低下
代替材の模索は続けられていますが、現時点でペルナンブコ材に代わるものは見つかっていません。弓の製作・修理が困難となることでハイレベルの演奏の維持・実現が困難となります。
2)維持の危機
現存する弓が破損した場合、修理・補修が不可能となり、歴史的価値の高い弓や著名な製作家の弓など貴重な文化財が、使用できない状態に陥る危険性があります。
私たちは、ペルナンブコ材の保全の必要性を理解しつつ、以下の点を強く要望し、提案いたします。
1)附属書Iへの移行見送り
附属書Iへの移行ではなく、より柔軟な規制を可能とする附属書IIに据え置き、適切な取引管理により、保全と文化的利用の両立を図ることを検討してください。
2)既存の弓・材料への特例措置
規制が強化される場合でも、個人所有の弓の移動および既に流通している製作・修理用材料の取引は、音楽文化持続のため特例措置を設けることを強く求めます。
3)持続可能な利用のための連携
ペルナンブコ材の持続可能な栽培・利用、密猟防止策に対し、音楽家も積極的に協力します。保全活動と芸術活動が共存できる枠組みを国際的に構築することを提案します。
ペルナンブコ材は単なる木材ではなく、音楽芸術の魂を宿す材料です。私たちは環境保全と文化の継承は両立できると確信しており、そのための建設的な対話を望みます。
CoP20に参加される皆様には、この声明に込められた日本の音楽家、楽器製作者および音楽愛好家の切実な願いと、芸術表現の未来への影響について、特別な配慮をいただきますようお願い申し上げます。
2025年10月31日
日本音楽家ユニオン