特別決議

2025年7月29日 カテゴリー:お知らせ

特 別 決 議 

今から八十年前、第二次世界大戦が終結し、人類は五千万人を超える戦死者という未曾有の犠牲を経験した。戦後、世界は安定へと向かうかに見えたが、実際には冷戦構造のもと、朝鮮戦争、キューバ危機、ベトナム戦争などの地域紛争が相次ぎ、さらに核兵器を巡る緊張の高まりの中で湾岸戦争も発生し、戦火が絶えることはなかった。

しかし、これらの衝突が第三次世界大戦へと至らなかった背景には、音楽をはじめとする文化芸術の果たした平和への働きかけが少なからず寄与していた事実を看過してはならない。

権力が憲法の趣旨を歪め、歴史的事実を忘却し、教育内容を恣意的に改変する例は過去にも存在する。そうした状況にあって、音楽家は常に戦争の残した痛苦と絶望を音楽に託し、社会に対して平和の尊さを訴え続けてきた。

この八十年間、日本は戦争を経験することなく、経済的な発展と表現の自由を享受し得た稀有な国家である。しかしながら、この平和と自由は決して偶然に与えられたものではなく、戦争の惨禍を体験した先人たちの不断の努力と強い意志によって築かれた成果である。

現在、世界を見渡せば、ウクライナにおける武力衝突、ガザ地区への侵攻、カシミールにおける紛争など、対話と理解を欠いたままの武力行使が繰り返されている。こうした情勢に対し、音楽家が果たしうる役割は決して小さくない。

音楽は言語や文化の違いを超えて人と人をつなぎ、相互理解と共感を生み出す力を有している。今こそ、音楽家は楽器を手にし、歌声を上げ、隣人に語りかけることから平和の実現を始めなければならない。

出自や人種、信仰の違いを超えて、互いに信頼し、尊重し合う社会の構築に資することをめざし、我々は音楽を通してその一助となることを強く自覚し、今後も責任を持ってその役割を果たしていく決意をここに表明する。

右、決議する。

二〇二五年七月二十五日
日本音楽家ユニオン第四十五回定期全国大会

 

第45回定期全国大会特別決議

日本音楽家ユニオン公式Webサイトの管理者です。

  • 投稿数: 26 記事