特 別 決 議
「音楽」という対話から紡ぐ、真の「平和」への決議
今、私たちが直面している「平和」のあり方が、根底から問われている。世の中には、抑止力の強化あるいは実力の行使の先にある統治をもって平和を維持すると主張する論理も存在する。
しかし、私たちが真に希求すべき平和とは、単に「戦火や目に見える紛争がない状態」という消極的な意味に留まらない。それは、異なる文化、異なる背景、異なる歴史を持つ多様な人々が互いの存在と尊厳を認め合い、等しく平穏に生きることができる豊かな社会の土壌そのものである。
現実の社会を見渡せば、そこには文化の摩擦や様々な対立があり、理想とは程遠い厳しい現実が横たわっている。しかし、現実が困難であるからこそ、私たちは理想の旗を降ろしてはならない。
私たちが求める平和とは、決して初めから用意された綺麗なものではなく、矛盾や葛藤に満ちた現実の中で、泥にまみれ、欠けたり折れたりした繋がりを、諦めずに少しずつ繋ぎ合わせていく不断の営みの先にこそある。
私たちが日々向き合っている音楽という営みには、正にその平和の土壌を耕す普遍的な力がある。あらゆる音楽の場において求められるのは、自らの主張を押し通すことではなく、徹底して他者の声に耳を澄ますことだ。相手の奏でる音を聴き、その背景にある呼吸を感じ、そこから調和(ハーモニー)を模索する。この「他者の声を聴く」という姿勢こそが、あらゆる分断や対立、そして現実の摩擦を乗り越え、人間が真の共生へと向かうための最初の、あるいは最後の入口になると確信する。
音楽は言葉の壁を越え、国境を越え、個々の心に直接響く「対話のメディア」である。私たちが音楽を紡ぎ、響かせ合う空間には、ただ純粋な人間としての共感だけが息づく。この豊かな営みは、社会が真の意味で平穏であり、個人の表現の自由が守られている環境があって初めて成立するものである。
だからこそ私たちは、単に与えられた平和な状況の中で音楽を奏でてきた訳ではない。時には権力による表現への介入や不当な排除に対し毅然と声を上げ、音楽を紡ぐ営みを守る活動を弛まず続けてきた。この不断の努力こそが、多様な声が存在し得る社会、すなわち平和を作り出すための土壌づくりそのものである。
私たちは力による抑止や分断ではなく、互いの声を聴き合うことによる調和こそが人類のめざすべき普遍的な規範であると考える。異なる音が重なり合うことで美しい曲が生まれるように、多様な人々が共生できる社会の実現に向け、私たちはこれからも現実の困難に立ち向かい、自らその土壌を耕し、豊かな「対話の音」を社会に響かせ続けることを、ここに表明する。
右、決議する。
二〇二六年七月二十九日
日本音楽家ユニオン第四十六回臨時全国大会